【麻雀マスターズ2017 in シドニー】4位入賞 鈴木聡一郎プロ 決勝自戦記 -後編-
336人で始まった大会も決勝戦の32人に絞らた。決勝は、32人が1半荘ずつランダムなメンバーで4半荘打ち、4半荘の合計点で順位が決まる仕組み。最初の1半荘目、一度もアガれずマイナス150点で終了してしまう。雲行きが怪しいのか、、そうではない、これは上手く凌いだ希望のマイナスなのだ。そして読みが的中する、2半荘目で大きくプラスに転じ一気に上位に食い込んだ。
本大会、決勝に残っている日本人は鈴木聡一郎プロただ一人。負けるわけにはいかない。日本を弱いとは思わせない!
攻勢へと転じた鈴木聡一郎プロ。大きなプレッシャーの中、決勝後半の3半荘目が始まる。
- 後編 -
Mahjong Masters 2017 Sydney 決勝自戦記 鈴木聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)
3半荘目:おれがやるしかない
思えば、昨年は決勝に小倉孝(日本プロ麻雀協会)も残っていた。
その安心感からか、気楽に臨めたというのが本音である。
「おれがコケても大丈夫。小倉さんいるし」
そんな自然体で臨めたのが、3位という好結果に結びついたのだろう。
しかし、今年は違う。
日本からの遠征メンバーで決勝を戦っているのは私のみ。
私が負ければ「なんだ、やっぱ日本弱いのか」と思われる気がして、絶対に負けられないプレッシャーがかかっている。
そんな中、開局早々にチートイツがすぐにアガれて90点(=30点×3)。
<画像.22>
プレッシャーが良い方向に働いている。
これで3位まで浮上した。
しかし、その後はアガれない時間が続く。
それでも、前に出ることはやめなかった。
できる限り前に出てけん制する。
小さい得の積み重ね。
場所は変われど、自分にできることなど、結局はそれしかない。
しかし、ホンイツをツモられ、マイナス55点。
<画像.24>
3pをチーしてソウズかピンズのピンフイーペーコーを目指して粘る。
<画像.25>
しかし、今度はチンイツをツモられ、マイナス100点。
<画像.26>
それでも、前には出続ける。
3フーロからの7m切りで、渾身のホンイツブラフ。
<画像.27>
今度はこの仕掛けで、ジュンチャンではない4pでのツモアガリを選択させることに成功した。
<画像.28>
とはいえ、マイナス40点。
今、何位まで落ちただろうか。
順位はモニターにリアルタイムで表示される。
どうやら10位以下に転落していることは、遠目にもわかった。
そしてオーラス、8mが重なり、3巡目にして南単騎のチートイツテンパイが入る。
<画像.29>
だが・・・
これをアガって、最終戦で上位に届くのか?
おそらく、届かない。
この手は、絶対ホンイツにする。
決意は固まり、ひとまずはテンパイに取ったが、すぐにテンパイを壊した。
ヤバい。
手頃な字牌が残っていないから、たぶん2人ともチンイツだ。
これをアガられたら、おそらくもう最終半荘の8局では上位に食い込めない。
でも、これでヤマ読みはしやすくなった。
自分が選択している4mと7mは絶対にヤマにいる。
日本麻雀で培った手牌読みとヤマ読みスキルが、アガリへの道を示している。
引けよ。
これぐらい引けよ。
今年は、すでにたろうも小倉も敗退している。
決勝に残っているのは私だけ。
おれだけなんだよ。
おれがやるしかないんだよ!
<画像.32>
右端の7mに7mが重なり、南を切って4m単騎に受ける。
ここまできたら全部勝負だ。
4mは絶対に2枚生きで、かつ、全員がツモ切る。
早く・・・早くいてくれ!
<画像.33>
そして、そのときはきた。
トイメンが4mをツモ切り、このルールでは珍しいメンホンチートイツのアガリ。
<画像.34>
210点(=70点×3)と、見た目よりは安い感じがするが、なんとか最終戦に望みをつないだ。
なんとか望みをつなぎとめたのは、日本の麻雀で培った読みの精度だった。
11位で最終戦に臨む。
最終4半荘目:前に出るタイミングを間違えないようにしなさい
優勝まではおよそ700。
これは、さきほど大爆発した2半荘目に、さらに三色などのアガリが1つ必要になる厳しいラインだ。
一方、3位まではおよそ300。こちらは非常に現実的なラインで、チンイツ1回で達成できるポイントである。
最終戦に向かう廊下で、ふとスマホを見ると、メッセージを受信していた。
<画像.36>
最近スマホに替え、文字を打ち始めて2か月の父からだった。
父には一言も言わずにシドニーに来たのだが、果たしてどこで聞いたのか。
その情報網には恐れ入る。
そして、どうやら、父・孝雄は期待しているようだった。
それにしても最終戦前のこのタイミングかよ、すげえな。
そう思い、麻雀の師匠ともいえる父に返信した直後、さらにメッセージを受信。
<画像.37>
何を当たり前のことを。
こちらのルールすらも知らない父からの助言だが、何やら今の私にはとても大事なことのように思えた。
なるほど。確かにその助言を否定する材料はどこにもない。
「わかった。やってみる。」
もう後がない状況だけど、押し引き、丁寧にやってみるわ。
とにかくがむしゃらに仕掛けて3フーロまでいくが、5pツモでチンイツピンフイッツーの145点という役満級のアガリを決められてしまう。
<画像.39>
いきなり145点の大きな失点。
これはもう、長打を狙うしかない。
そんな思いで、勝負をかけた。
<画像.40>
この手牌から、打6s。
ソウズで2メンツを作ったピンフ三色も構想にはあったが、ソウズが高いため、ソウズでは1メンツが限界と踏んだ。
1メンツならば、567より789でジュンチャン三色の長打を目指す算段である。
すると、その6sに下家がポンをかけ、あっという間にソウズで3フーロ。
<画像.41>
しかし、こちらも一歩も引く気がない。
親父の言葉が聞こえる。
「押すとき、引くときのタイミングを間違えないようにしなさい」
んなこたあ、わかってんだよ!
ここしかねえだろうがよ!
今がその、押し時ってやつだろ!
<画像.42>
ソウズの3フーロがいる状況から、ようやく仕掛け始めることができた。
<画像.43>
すぐに2pを引いてイーシャンテン。
この時点で、ソウズの下家が西を手出ししている。
9sは、チンイツの単騎に当たってもおかしくない牌だ。
当然押すつもりだが、巡目も深くなってきていることを考えると、このままテンパイしなければオリもあるため、9sをテンパイ打牌にすることとし、打3mとした。
<画像.44>
すると、下家が北も手出ししていよいよチンイツのテンパイ気配。
<画像.45>
そんな状況下で、私にもテンパイが入った。
自信のあったピンズの上。
8pも9pもヤマに生きている確信があったが、ここでようやく8pが到着。
8pよ、今までどこで油を売っていたのか。
通常なら詰問するところだが、あまりのうれしさに、走り終えた駅伝のランナーよろしくサッと抱きかかえて迎え入れ、9sを勝負した。
こういった9sクラスの超危険牌を勝負するとき、昔から自然と腹に力が入る。
みんなそうなのかはわからないが、私はいつもそうだ。
腹に力を入れたからって、通るわけではない。
ただ、このときは通った。
通った?
なら、タスキを受けたうちの最終ランナー9pは、絶対にゴールテープを切るよ。
<画像.46>
土俵際からの、ピンフジュンチャン三色。
90点なので90×3=270点という、チンイツに匹敵する大物手に仕上がった。
これが反撃の狼煙。
<画像.48>
続いて、ピンフジュンチャン165点(=55点×3)のアガリを軽々と決めると、いよいよ残り2局。
そんな局面で、大物手が入った。
6巡目には、あっさりとこんな手牌になる。
チートイツのイーシャンテンだが、この手牌にチートイツの構想はない。
基本的には、小三風30点か大三風120点をつけたホンイツトイトイ狙いである。
どこからでもポンする予定だったが・・・
<画像.50>
次巡、あっさりとチートイツのテンパイが入ってしまう。
このとき、ポイントが書かれたボードを見上げる。
現在、私は7位。
590ポイントで、入賞となる4位までは150ポイントほど。
首位までは600ポイント。
私が採れるプランは2つある。
プランA「手堅く4位」:このチートイツ(70×3=210点)をアガると、高確率で4位になれる
プランB「攻めて優勝」:このチートイツをアガらずにトイトイで決めると、ホンロートー100点が必ず付くため、ホンイツホンロートイトイ小三風+役牌の210点スタート。210点×3=630点なので、一気に首位までいく。もし大三風120点にでもなれば、優勝当確だろう。
わずか数秒の間だったが、様々な感情と思考が頭の中を駆け巡った。
「ここで日本人が1人も表彰台に乗らなくていいのだろうか。手堅く4位を狙いにいこう」
「いや、優勝だろ。優勝への道があるのに、それを自分の手で閉ざすなんて、あり得ない。たとえ、4位に入れなくても、優勝を目指すべきだ」
その結果、私が下したのは、プランAでもBでもなかった。
中庸のプランCである。
「出たらこのままアガる。ただ、先にポンできるヤオチュー牌が出たのなら、それはポンしてトイトイにいく」
<画像.51>
すると、次巡に早くも2mが舞い降りた。
なんだよ、さっきの9pとはえらい違いだな。
もっと寄り道してきてもよかったのに。
この210点(=70点×3)で暫定4位に浮上したわけだが、この選択が正しかったのかどうかはわからない。
この判断は、確かに私が入賞した勝因である。
しかし、同時に、私が優勝できなかった敗因でもある。
中途半端な選択なのかもしれないが、これが、今の私にできる最良の選択だったように思う。
と、ここで、ヤマを積み終わった私は席を立つ。
「Sorry, wait a minutes. Let me check」(すみません、ちょっとポイント確認させて)
私の位置からは見えにくかったため、ポイントボードを念のため確認しにいく。
<画像.53>
確かに、私は現在4位に浮上しており、3位までは80、2位までは170差であること、5位との差が80であることを確認した。
放銃すると5位に落ちる可能性があるが、ひとアガリして1つでも上の順位を目指したい。
終盤までもつれる展開となったオーラス、悪配牌をなんとかイッツーのイーシャンテンにこぎつけると、安全牌を抱えて1mを先切りした。
<画像.54>
下家が鳴けば、私にハイテイが回ってくる。
下家はまだ門前だが、123の三色気配。
この巡目で切らないと、下家が鳴いてくれないかもしれない。
もしかしたら、下家がテンパイしていて、放銃になるかもしれないが、テンパイ気配はないと自分の感覚が言う。
だったら、勝負だ。
これが最後の押し時だろう。
すると、これがハマり、下家がチー。
そして、次巡、私にテンパイが入った。
<画像.55>
出アガリはほぼ期待できないだろう。
待ちはかなり苦しそうなペン7s、ツモはあと2回。
次巡にツモれば3位、ハイテイでツモれば準優勝である。
次巡が空振り、迎えたハイテイ。
<画像.56>
このハイテイは、3巡前に下家に鳴かせ、いわば自分で勝ち取った1牌である。
マンガなら、ここで7sがいるんだろうか。
そんな劇的な幕切れを想像しながら、珍しく、力を入れてツモったような気がする。
ツモ牌は変わらないというのに。
<画像.57>
ハイテイに7sはいなかった。
ただ、私は、自分の読みに殉じて、ハイテイというこの1牌を勝ち取ったことを、誇りに思った。
麻雀とは、どんなルールであろうと、小さな得の積み重ねである。
思い返せば、予選からとにかく前に出て相手をけん制していった。
それ自体は小さな得かもしれないが、私にできることなど、それしかない。
その集大成が、このハイテイという1牌を勝ち取ったことであり、4位入賞という結果である。
<画像.58>
この4位が勝ちなのか負けなのか。
少々複雑な思いで、優勝者に話しかけた。
「Congratulations, you really strong」(おめでとう!あなたは本当に強い)
本当にそう思った。
去年も同卓したが、この人は本当に強い。
しかし、そんな彼から意外な言葉が出た。
「No, you Master」(いや、あなたこそマスターだよ)
話していくと、どうやら去年同卓したことも覚えていたようだった。
この言葉に、救われたような気がした。
そんな感謝とともに、彼に返す。
「No, you Grand Master this year!! Congratulations!! Let’s play Mahjong next year again」(いや、何言ってんだよ、今年はあなたがチャンピオンだろ!おめでとう!また来年打とう!)
握手して、2人で笑った。
彼は、本当にうれしそうに、しかしながらどこか照れくさそうに、「Thank you」と言った。
そして、彼と離れた私は、心の中で、続きのセリフをつぶやく。
But, I’ll be a Grand Master in next year!! (来年は、おれが優勝すっかんな!)
また来年、私はシドニーで牌を握ることになるだろう。
ここで引くわけにはいかないのである。
かくして、私の押し時は続く。
鈴木聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)
本当にお疲れ様でした!!!
来年はいよいよ優勝ですね^-^
2018年大会でも応援できることを楽しみにしております!
Mahjong Masters 2017 Sydney Photo Gallery
日本人プロ参加者
- 鈴木聡一郎プロ(最高位戦日本プロ麻雀協会)
- 鈴木たろうプロ(日本プロ麻雀協会)
- 小倉孝プロ(日本プロ麻雀協会)
- 大澤ふみなプロ(最高位戦日本プロ麻雀協会)(麻雀豆腐の特別招待枠争奪戦優選手)
- 白田みおプロ(RMU)
- 桐山のりゆきプロ(日本プロ麻雀協会)
一般参加者
- 竹崎真央さん(麻雀豆腐の無料招待イベント当選選手)
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